学名:Shibateranthis pinnatifida
セツブンソウはキンポウゲ科の植物で、春に咲くスプリング・エフェメラルの一種としては有名なものです。セツブンソウという名前ですが、2月4日ごろに咲いてくることはまれだと思います。普通は早くても2月下旬、遅いところでは3月になって花が咲きます。
花は清楚な白い花で、黄色い蜜腺が特徴的。花弁に見える白い部分は実際には萼片で、分類上は蜜腺を含む部分が花弁となります。このへんは同じキンポウゲ科のクリスマスローズ(ヘレボルス)とよく似ています。細かいことは抜きにしても、高さ10cm内外で小さな星のような花をつける姿は可愛らしく、山野草としても人気があります。
関東から西に多く分布し、広島県でも多く自生があるようです。しかし球根性の植物で寒さにも強く、東北などでも比較的栽培は容易だと思います。ここではセツブンソウの育て方を説明します。
基本的な育て方
栽培のポイントは、通年水を切らさないようにすることと、肥培のタイミングを逃さないことです。
球根性の植物で、春、花が咲いたあとは、5月ごろにすっかり枯れてしまいます。その後、地上部がなくなったあとも完全に乾かしきってはいけません。夏も忘れずに水をやるようにします。
また春の成長期間が短いため、少し早めに肥料を与えたりして、成長期にしっかり成長できるようにすることが肝心です。
それさえ守れば比較的育てやすく、場所がよければこぼれ種でいつのまにかたくさん増えることもあります。
冬~春
花が咲いてくるのは2月下旬ですが、土を掘り返してみると球根にすでに花芽が出来ているのが見えることと思います。
ここで水を切らしてしまうとせっかくの花芽がだめになってしまいます。冬は乾燥しにくい季節ですが、それでもあまり長い間水をやらないと土は乾いてきます。カラカラになる前にしっかり水をやりましょう。
蕾が地表に見えてきてからは、遅霜に注意。雪の下でも平気ですが、完全に花が見えてからの寒風や霜には注意しましょう。花が痛みます。
また、花が見えてきたら肥料を少し与えます。
夏
5月半ば以降、葉がかれ、花茎も倒れて地上部はなくなります。完全に地上部がなくなると、セツブンソウは球根の状態で半年を過ごします。セツブンソウの球根はチューリップなどと違って乾燥させないほうが育ちがいいようです。夏の間も、土が乾いたら水をしっかりやるようにします。掘り上げる場合も、土をまぶしたりして極端に乾燥させないように注意します。
また植え替えも8月末~9月に行います。この頃は完全に球根の状態で、新しい根もまだ出てこないので、もっとも植え替えに適しています。
秋
10月以降、徐々に新しい根が伸びてき、力がついていれば花芽もできあがります。セツブンソウの花芽は10月頃にはもう目に見える形になっています。この時期は特に注意することはありません。植え替えをまだしていない場合、根を傷めないように気をつけながら植え替えます。
植え替え・株分け
セツブンソウの植え替えは夏に行います。セツブンソウは分球で増えることはなく、徐々に球根が大きくなっていくのみです。植え替えの一番の目的は、用土の更新と、球根の位置を調整することです。球根の大きさと花の数については、最後を御覧ください。
セツブンソウの球根はいつの間にか地中に潜っていく性質があります。これは他の多くの球根植物にも共通した性質です。ポットや鉢で栽培していると、完全に底にへばりつくようになっていることも珍しくありません。そのままでは下に根を下ろせず、効果的な成長ができないと思いますので、植替えの際に球根を適切な位置に持ち上げてやります。
具体的には用土のちょうど真ん中くらいに植えなおしてやるのがいいと思います。ポットサイズは1球の場合9cm程度。中心よりすこし上でもいいですが、球根が土から見えないことが必須です。あまり浅いと球根がいたんでしまいます。
数球まとめて植える場合、球根の数に応じて鉢のサイズを変えますが、特に深い鉢である必要はありません。大きな鉢でも、深さ15cmくらいあれば十分だと思います。
植え替えの際に気をつけるのは球根の向きです。セツブンソウの球根には上下があります。それを間違えないようにしましょう。完全な球状ではなく、すこし平らになっていて、ざらざら、でこぼこしている場所があります。それが下になります。
夏にはまだ芽が出ていないので少し見分けづらいですが、よく見ると分かります。もしわからなくても、横になっていれば生育に問題ありません。どうしてもわからない場合、しばらくして根が伸び始めたころに掘り返して、ひっくり返っているものを正しい向きに直します。12月くらいまではそれほど根も伸びないので、掘り起こしてもそれほど影響はありません。
肥料
セツブンソウのような球根性植物には、液肥をやると非常に効果が高いと言われます。
置き肥の他に、花後に液肥を時々やることで翌年の花付がずいぶん良くなります。
とくにセツブンソウのように比較的小型の植物の場合、なんとかしてより多くの栄養を与えるために工夫している方が大勢いて、なかには液肥としてブドウ糖を使うのが効果的というかたもいます。
実際、ブドウ糖をやることで球根の肥大に効果があります。砂糖と比べ分子構造が小さいため、根からも効果的に吸収されるのかもしれません。ブドウ糖をやる場合も、一般的な液肥と同じように1,000~2,000倍程度に薄めてやります。あまり濃いものをやってはいけません。また、水に溶けにくいので先にお湯に溶かすなどしてよく混ぜてから使います。
ただし、わたしはブドウ糖と液肥で比較はしていないので、果たして液肥とくらべてどれくらい違いがあるのか、ブドウ糖のほうがいいのかはわかりません。
花を咲かせるだけなら、特にブドウ糖にこだわらなくてもしっかり肥培することでほぼ毎年花を咲かせることは可能です。ブドウ糖を併用することで、さらなる球根の肥大が期待できるようになるかもしれません。
もちろん、元肥を少し入れることも大切です。
増やし方
分球
かなり長い年月が立って肥大化した球根は、割れてしまうことがあります。その場合、幾つかに別れたそれぞれが、セツブンソウとして生育します。それを考えると、セツブンソウのぶん給は不可能ではなく、花芽形成前に球根を切断することで、各部に成長点をもたせたまま強制的に分球させることが可能なはずです。
分球させる場合、まずタイミングが大切です。花芽や葉芽ができてからでは遅いので、秋前には行います。おそらく夏ごろがいいのではないかと思います。
また清潔にし、雑菌を寄せ付けないようにする必要があります。切断後はかならず殺菌剤を使いましょう。失敗すると腐って枯れてしまうのでそれなりにリスクがあります。また、あまり小さいうちは分けることでそれぞれの養分が少なくなりすぎ、やはり弱って枯れてしまうことがあります。分球を試みるのは、最低でも直径2cmくらいになってからにしましょう。
実生
より一般的なのは種を蒔いて増やすことです。
セツブンソウはそのままでも種がつきますが、人為的に交配することで種ののりが良くなります。先端の黒い部分がオシベで、時期になると粉を吹いたように花粉をだします。その花粉を、花の中心から伸びているメシベの先端につけることで受粉させます。できれば、同じ花ではなく、オシベとメシベ、それぞれ別の個体のものを使うことでより受粉しやすくなります。
種は5月頃にみのります。鞘が固くなり、手で触るとかんたんに種がこぼれるようになると蒔ける状態になります。ほっておくと鞘が割れて種がこぼれてしまいます。
実生したものは、だいたい4年くらいで花が咲く大きさになります。最初の1年目は糸のような葉が出るだけですが、その後セツブンソウらしい葉が見られるようになります。そうなったら、面倒でも植え替えをします。2年めごろはほんの2、3ミリの球根ですが、そのころにしっかり植え替えることで早い成長が期待できます。
面倒なら、蒔きっぱなしで何年かほうっておくと、数年後に全部の球根がポットの底にびっしりへばりついています。それを掘り上げてもいいでしょう。
球根の大きさと花の数の関係
先にもかいたとおり、セツブンソウは成長するにつれ球根が大きくなりますが分球することはほぼありません。その点はシクラメンと似ています。そして花の数は、球根が大きくなるに連れて増えてゆきます。
小さいうちは、小指の先くらいの球根で花も1つのことが多いですが、成長するに従って球根は親指の爪くらいになり、更に大きくなり、花も一つの球根から3つ、5つと咲くようになります。
さらにおおきくなると直径5cm以上にもなり、一つの球根から10以上の花を咲かせることもあります。
ただし大きさと花数は正比例するわけではなく、その年の栄養状態によってもかなり変わります。
少し分かりづらいですが、この写真を見ると小さいほうの球根には花が3つついているのに、倍くらいおおきな球根には2つしかついていないことがわかります。
大きい球根のほうが2年くらい早いのですが、前年に種をつけた、あるいは肥料がたりなかったなどの理由で花が少なくなることはよくあります。また小さくても、肥培がうまくいっていればたくさんの花をつけることもあります。
同じ環境で同じ条件下で栽培した場合は、当然おおきな球根の方がたくさんの花をつけるはずです。
分球
セツブンソウは自然には分球しないと書きましたが、自然に割れてしまうことならあると思います。
セツブンソウは大きくなるにつれ、球体から離れて徐々に形がいびつになっていきます。やがて形はかなりでこぼこしてきて、いつのまにか一部が欠けてしまうことがあります。その場合、本体だけでなく欠片からも芽がでて成長します。
いわゆる分球とは違いますが、このようにして増えることなら時々あります。